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漢方閑話㉗ 少年の熱中症

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2018年10月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

◇10代の少年は熱中症になりやすいと母親から電話の相談がありました。少年は夏に弱く熱中症で熱が出てしまう。今は熱のために寝ていると言います。熱中症にならない方法はないかとの問い合わせです。実際にお会いしてみると体格は標準で病み上がりのせいか顔色はすぐれないように見えます。汗かきで口が渇き冷たいものを飲みたい。疲れやすい。舌先端や辺縁が赤く黄色い苔がついています。舌尖や辺縁が赤いのはからだの精気が損傷し、気分や営分といった体内の少し奥まったところまで熱邪に侵されている証拠です。また舌の苔が黄色いというのは病邪が熱を帯びていることを著しています。
◇漢方では病気の進行は風寒の邪に犯された場合と風熱の邪に犯された場合に分けて考えています。風寒の邪に皮毛が犯されると病証は冷えの方向に進行します。よく知られる葛根湯は風寒に侵されて頭痛、発熱、悪寒、汗なく、頭項強痛する病証に用いられます。寒邪に侵されて身体が凍えふるえているのを汗が出る状態にまで身体を温めて、汗とともに風寒の邪を去ろうとするものです。
◇一方風熱の邪はヒトの鼻、のど、口から進入しそれを支配する肺を犯します。肺には手の太陰経が通じ腎から得た精血がみなぎっています。風熱の邪は陰分である精血を損傷します。寒邪に犯された場合はからだの陽気を損傷し病症が冷えの方向に進行するのに対して風熱である温熱の邪はからだの陰分を損傷して熱の方向に進行します。少年が発病したのは処暑の季節(8月下旬)、夏の暑さのために暑温や湿温の暑邪に犯されて発病したと考えられます。暑邪は太陽とそれに焼かれた大地の湿気に蒸されて発熱、口渇、冷たいものを飲みたい。疲れやすいなどの病症を発症したものと思われました。暑邪は口、鼻、咽喉を犯したのち、胃腸を支配する陽明経や気分に侵入します。病邪は体表から衛分、気分、営分、血分と深く侵攻し、特徴ある症状を呈します。高い熱が出て大汗をかき、口が渇き冷たいものを飲みたい、小便が黄色などの症状は暑邪が気分を犯したものと考えられます。陽明経の気分に鬱滞した暑邪による大熱、大汗、大渇を解消し、大汗によって失われた元気を補うことが求められます。また日常の冷たいものの摂取に注意をして、身体の精血を養うことが猛暑による熱中症に対する体質改善と思われます。

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