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漢方閑話㉕ 便秘

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2018年8月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

◇90代の男性は長い間便秘に苦しんできました。診療所で処方される大腸刺激性の下剤と湿潤性下剤を飲んできました。それ以外にも市販の漢方便秘薬、アロエの製剤、多くのサプリメントを服用してきましたが思うようになりません。長身で体重は30キロ台。肺気腫があり息苦しい。咳と白い痰が出てアレルギー性鼻炎もあります。20年来の糖尿病ですが血糖のコントロールは順調です。10年来左の胸に影があると言われ昔肺炎をやった後でしょうと言われています。冷え性でこの夏の酷暑の中で股引(ももひき)を二枚、厚手の靴下を2枚重ねてはいています。脈は弦滑で強い脈がうっています。舌は苔がなく真っ赤です。各種便秘薬を服用しますと下腹部に膨満感が出て痛み、腹が冷えています。長い間服用してきた大腸刺激性下剤や漢方便秘薬は大腸が熱を持ち便秘になったものに用いられます。その中のセンナや大黄はその性質が寒性で大腸の熱を冷まして通便させる作用があります。下腹部の冷えた人が飲めば腹痛を起こし腹が張ります。では温めて排便させたらよいではないかと考えられますが当人はこの酷暑の中で下腹部や足が冷えています。四肢は脾胃が支配し脾胃が冷えれば足もひえ、脾胃が暖かければ足は冷えません。大腸の便秘が足を温めることを阻害していると考えられます。しかし長い間大黄やセンナの製剤を服用してきたのですから大腸の熱は奪われていると思われます。問題なのは舌の色が真っ赤で苔がないことです。肺や大腸の潤いが失われていると考えられます。肺は五臓六腑の被い(おおい)のようなもので大気や腎からくみ上げた津液を雨のように、霧のように五臓に降り注ぎ五臓の乾燥を防いでいます。肺と大腸は表裏の関係にあり、肺気の下降で通便します。その肺胃の水分が長年の大黄、センナなどの服薬で損失したことが考えられます。肺、胃の精、血、津(しん)を補い、陰分を補充する必要があると考えられます。また本人は若い頃健診で飲んだバリウムがなかなか下がらず大量の水を飲み、激しい運動をしてバリウムを下げて健診に臨み、心下で胃がくびれていると指摘されます。くびれによる胃気の上逆を止め肺気や大腸の気を下降させますと腹満、腹痛することなく排便を得たとのことです。引き続き肺、胃の陰分を補い気持ちの良い通便をめざしています。

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