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漢方閑話㉑ 手のふるえ

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2018年2月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

◇年の瀬も押し迫り今年もこれで打ち上げと思っていたところへ一人の高齢の女性がやってきました。手のふるえが止まらないのだと言います。見ると両方の手がぶるぶるとふるえて止まりません。風邪をひいて悪寒で震えているのではなく向精神薬の服用もパーキンソン氏病もありません。健康飲料のユニフォームを着て第一線で働いている様子。歩く姿はいくぶん活発さを欠いてヨチヨチ歩きです。どうしてこの不随的なふるえが起きているのかと思いました。
◇中学生の頃英語の時間に習ったワーズワースの詩が一瞬頭をよぎりました。「誰が風を見たのでしょう・・・」木の葉が揺れざわめいたとき洋の東西を問わず古人はそれを風だと言い身体が揺れふるえるのを風によるものとみてきました。風邪による外感でないとしたら体力の不足による内風と考えられます。全身症状を尋ねても悪いところはありません。ただ唯一引っかかったのは家庭内の不和を語気強く話した時です。これだ。風を熄*(しずめ)なくては。木や風は漢方では肝と同類に分類され肝は血を貯蔵し筋の運動、ヒトの感情を支配しています。その感情は気がのびやかにならずに滞りますと気はつまり熱を持ちわずかな言葉のやり取りで感情が爆発してしまう。肝が熱を帯び、風を生じ火と化し怒りのために肝火が上炎し風を巻き上げ怒りに身体がふるえるのです。肝木は腎水の子供、腎水に養われています。腎には髄が貯蔵され精を生じ骨髄は全身の骨格を支えています。骨髄が不足しますと身体は支持を失い歩けず、よろめきふるえ痙攣します。心は神(しん)を蔵し全身の精神思惟活動の司令塔です。五臓の主で君火を貯蔵します。腎精が不足しますと風を生じ心神は筋を支配できず痙攣します。脾胃は気血生化の源です。脾胃が失調しますと気が生まれず滞り血は不足して気血の流れが滞ります。気が滞れば全身の水分の流れも渋滞し痰や瘀血が生じ精血は消耗され痙攣します。
◇この人は高齢に伴う肝腎の精血不足と感情の高まりによる内風で筋脈を養えず痙攣が起きたものと考えられます。心神を安らかにし肝腎の精血を充填し肝熱を涼(さ)まし肝風を熄(しずめ)ようと選薬しました。年が明け本人が来店され「あれを飲むと一服で楽になり二服飲むと治った。」と。内風が熄(やん)だのです。すべてこんなだったら良いのですが。

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