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漢方閑話⑱ においが分からない

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2017年11月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

◇60代の女性はこの一年来味覚障害になり味、においが全くわからない。辛味や酸味は多少感ずるがそれが何の味か分からない。母親の死後1年経つがそのせいでもない。2つの総合病院の検査でも異常なしとの診断です。「脳に神経が行っていないから」と言われ脳外科を受診しても異常は見つかりません。そんな折NHKテレビで味覚嗅覚障害の番組があり自分と似た症例がないかと必死に追い求め数ある症例の中に臭いを失った人が一人だけ紹介されたそうです。その人はインフルエンザに罹患後嗅覚を失い漢方薬の当帰芍薬散が処方されたのでそれが欲しいというのです。伺ってみますと軽いホットフラッシュ、肩こりや腰痛、手のしびれ以外にこれといった症状はありません。
◇当帰芍薬散は漢方の古典に記載された伝統的な処方で婦人の妊娠病でお腹が絞るように痛むものの他、各種の婦人の腹痛に用いられています。処方中には血液の不足を補う補血薬や脾を補い水分の代謝障害を改善する利水剤が配合されています。それを活用して体力の不足した虚証の人で貧血、冷え性、全身倦怠感、足の冷え、月経不順など広く応用されています。しかしこの方はそのような感じではなく当帰芍薬散には該当しないと思われました。調べてみると某大学の耳鼻科でこれを推奨していることがわかりました。大学もはっきりした推奨理由は分からないとしています。感冒罹患後の嗅覚消失に改善例があったという経験則から用いられているようです。しかしインフルエンザ罹患後の嗅覚消失になぜ当帰芍薬散なのかは記されていません。
◇鼻には臭いを感受するセンサーが備っています。そのセンサーの働きと電波の発信が脳に届かず脳では電波を受け入れられない。鼻と脳の両方のセンサーが麻痺してしまっていることが考えられます。それはあたかも脳卒中などで神経麻痺を起こしからだが不自由になってしまったように鼻の臭いの受容体の神経麻痺を改善したら臭いが脳に届くのではないかと考えられます。鼻は肺の窍(あな)と考えられています。肺は呼吸を主どり、腎とは上下で協調をはかり脳とは心を通じて臭いをかぎその匂いが何の香であるか記憶しています。心窍が何らかの病因によって閉じられますと意識障害や嗅覚消失におちいります。香りのよい漢方薬でこの窍を開き感覚麻痺の改善を提案しました。

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