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漢方閑話③

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2016年9月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

出産後の不眠

◇40代の女性は半年前に第二子を出産しました。産後の鬱症状が出て脳神経外科を受診し睡眠薬が処方されました。体重は50kg、身長は155cm。2回とも帝王切開で第一子は個人の診療所で対応も親切で個室であったため気を使うこともなく実家にも近いこともあって親元で世話をしました。第2子の時には総合病院で4人部屋、気を使い精神的にも疲労しました。体調がすぐれず体重は12kg減少し、血圧も180に上昇し、「家に帰りたい、帰りたい」と大騒ぎになり、出産三日後に一時帰宅します。自宅に帰れば落ち着くのではないかとの家族の期待もむなしくそれでも落ち着かず「この1週間は一睡もできない、このままでは死んでしまう」とパニック状態となり大騒ぎをしていると言います。遠方に出張中だった父親が急いで帰宅し事情を打ち明けられました。
◇漢方の不眠は現代医学の睡眠薬と違って夜寝る前に服用すればすぐ眠れると言うのと少し違います。他の病症と同じように陰陽水火気血の五臓の変調によるものと考えています。其の病態は陰が不足したのか陽が過剰になったのか、水が過剰になって痰が生じたのか、火が亢進したのかを見極めます。五臓六腑をめぐる陰陽水火気血は変調すると肝、心、脾、肺、腎に影響を及ぼします。「神」(しん)を蔵する心は睡眠をつかさどり脳髄を支配し、脳は下焦にある腎から精気を送られ、心は貯蔵する火気を腎に送り心腎が互いに水火を交流させると睡眠はおだやかです。心が精神的に失調しますと熱を持ち不眠になります。腎水が不足しても熱を持ち不眠になります。肝は血を蔵し気分の疏泄を司っていますから肝気が鬱滞し熱を持ったり、痰が生じ痰火となり機能亢進しますと心を淫し不眠となります。また心肝の気が不足しても不眠になります。脾胃は人体の栄養を司り心に栄養を送り心は脾を温め互いに助け合っています。心気が衰え支配する神気と思いの気と脾の支配する意智の気が弱りますと気血が不足し、思慮過度に陥り物忘れや物事に恐れ、おびえ、びくびくし動悸がして不眠になります。娘さんは家庭的にも不自由はないのですが慣れない入院生活で神経を消耗させ脾気が衰え痩せ、心気も弱り思慮過度となりパニック状態となり不眠に陥りました。脾胃を調え心気を養いますと服薬5日後には小康状態となり続服されました。

 

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