お知らせ
漢方閑話㉓ 強迫神経症
「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2018年6月に投稿された漢方閑話をご紹介します。
◇30代の男性はトラックの運転手です。運転中に何か物をひいたかなと思うとそれが気になり車を止めて無事を確認しに行くというのです。そのような行動が何度も繰り返され習慣化し強迫神経症だと指摘されています。そのうえ排便時に下着を汚したと思うと実際には何も汚してはいないのに何度も取り換えると言います。自分ではヒトをひいてはいないと分かっていても確認せずにはいられない、下着を取り替えないと安心ができない。自分では大丈夫だと分かっていながら不安、恐怖感から逃れられないのです。外出の時にカギをかけ忘れたのではないか、ガス栓はちゃんと切ったか不安でたまらない。普通の人でも日常起こることですがその不安感にしつこくとらわれてやめられない。その不安感が消せないために不必要な行動を繰り返す。
◇現代医学では神経細胞から神経細胞への伝達物質の機能異常により「人をひいてはいない。下着はきれいだ。」などの情報が正しく伝達されずこのような強迫観念や強迫行為が起こると考えています。漢方ではこのような恐怖、不安感を五臓の働きに求めています。ヒトには五臓六腑があり、五臓には喜、怒、憂、思、悲、驚、恐の七情が舎っていると考えます。肝には怒が、心には喜、脾には思、肺には悲、腎には恐の五志が支配しています。五志は互いに独立し互いに協調し人体の調和をはかっています。人体にあって人の精神活動を主宰するのは心です。心は血を生じ体内の隅々まで血をめぐらせその血中に神が舎っていると考えます。物事を恐れ物思いにふけり度が過ぎますと神が傷つきます。神が傷つきますと恐怖症になります。何事にも恐れおののいて自主性を失い自分自身の行動に抑制が効かなくなります。脾は意を蔵しています。意が傷つきますと心が煩悶して乱れます。心脾の乱れは自分自身の行動に抑制が効かなくなります。肝には魂が舎っています。胆とは臓腑の関係で相互に協力し謀慮と決断をつかさどっています。肝気の弱り胆気が乱れますと物事を恐れ決断力が衰え自信がなくびくびくします。腎には恐が舎どり腎が衰えますと恐れおののきます。症例はトラック運転という神経をすり減らす職業で心肝胆腎気を消耗し五志相互のバランスを崩し決断力が弱り強迫神経症になったものと思われます。心気を養い腎気を補い胆気を強めるよう処方しました。