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漢方閑話⑲ つわり

「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2017年12月に投稿された漢方閑話をご紹介します。

◇30代の女性が第2子妊娠の幸運に恵まれました。第一子の時につわりがひどく病院の漢方処方でよかったのですが今回はそれが飲めないと言ってやってきました。妊娠してつわりが始まり体重は2キログラム減少しましたが顔色もよく元気もあります。身体は暖かく、食欲もあり吐いた後は一気に疲れる。睡眠はよい。舌質は灰白色で赤みはありません。みぞおちを押さえると痛い。特徴的なのは朝7時の朝食は問題なく食べられ昼食も一応食べられる。昼過ぎになって3時から4時頃になると吐き気が出てきます。やがて5時6時の夕食の支度にかかると吐き気に耐えられなくなってきます。味は何でも食べられる。胃からのどにかけて「ガッ」と熱くヒリヒリ焼けている感じがします。便秘はなく順調です。みぞおちは抑えると痛く、じりじり熱い感じがします。もし妊娠していなかったら胃薬を飲みたい感じがする。胃がむかむかして、その感じは「例えば酒を飲んで吐いてグッタリした感じ。」「胃の壁が薄くなっている感じ」、「息が切れてしまい、息が上がってしまう感じがする」というのです。
◇この方の妊娠悪阻(おそ)の状態を考えてみますと胃が弱く心下が痛む。心下からのどにかけて燃えるような熱さがある。身体は冷えない。矛盾するのは胃が熱い一方で舌質は淡白で赤みがないことです。胃から咽喉にかけてヒリヒリと焼ける感じがするのに舌はかえって淡白で熱証がないのです。朝食や昼食は食べられるが夕方になるとはきけを催し5時6時には耐えられなくなってしまうのです。これは下腹部には冷えがあるのに心下から上は熱がこもっていることが考えられます。上熱下寒の状態で、脾胃の昇降失調が起きているのです。胃は食べたものを下焦に送り脾は水穀の精微を上焦に運ぶのが順調な脾胃の働きです。午後4時から8時の時間帯は陽明の胃気が盛んになる時刻です。心下から咽喉にかけての正中は任脈や衝脈の通り道で胎児に栄養を与えています。その反対の背部正中には督脈があり全身に陽気を与えて温めています。妊娠によって衝脈が活発となり上逆し夕方には陽明の胃経が盛んとなりふたつの経気が重なり胃気は下降できず嘔吐します。上逆した衝脈、胃気を下降させ冷えた下腹部の寒気を温め胃熱と脾寒を交流し脾胃の昇降失調を改善しますとつわりよる嘔吐は改善しました。

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